埼玉県の秩父にある、秩父蒸溜所で製造されるイチローズモルト。とにかく希少で手に入らないウイスキーとして知られています。
「イチローズモルト」が世界に広まったのは、創業者である肥土伊知郎（あくといちろう）氏の大きな決断と行動力、そしてウイスキーへの熱い思い。
夢を語ることで形になったウイスキー「イチローズ・モルト」についてご紹介します。
ウイスキーの「隠れた市場」
今でこそウイスキーの人気は世界中で市場が拡大していますが、創業者の肥土伊知郎氏が実家である造り酒屋を継ぐ2000年当時は、まだ日本のウイスキー市場が縮小し続けていた頃でした。
肥土氏は、それまで入社していたサントリーで培った営業力で家業を手伝うことに。ここから本格的にウイスキーの魅力に気付いていくのです。
肥土氏の実家は江戸時代から続く造り酒屋で、肥土氏の祖父の時代からウイスキー事業も始めていました。そのウイスキーの味わいは、「クセがあり飲みづらい」と言われていたそう。
そこで肥土氏はバーを巡り、ウイスキー愛好家たちに自社ウイスキーをテイスティングしてもらい、意見を聞いて回ることを始めます。
そこには、世界中のウイスキーを求め集まる愛好家たちの「隠れた市場」があったのです。どんなに日本でウイスキー事業が縮小していても、ちゃんと需要はある、そして個性のあるウイスキーの可能性にも気づくことができたのだそう。
株式会社ベンチャーウイスキーの誕生
肥土氏が家業に戻ってから4年後の2004年。経営難で会社は人手に渡ってしまうことになり、さらには新しいオーナーの意向でウイスキー事業の撤退を告げられてしまいます。
しかし、祖父が立ち上げた羽生蒸溜所には、20年近く熟成を重ねた400樽の原酒が残っていたのです。肥土氏はここで、ある使命にかられます。
ーー”この原酒を守り、世に出してあげたい”ーー
樽を保管するには、製造免許が必要です。どこかに預かってもらえなければ、この20年ものの原酒たちは廃棄されてしまう。
この原酒たちを”何とかしたい”という強い思いで、製品化するために立ち上げたのが、「株式会社ベンチャーウイスキー」です。
イチローズモルトの誕生
20年近く眠っていた400樽の原酒を預かってくれたのは、福島県にある笹の川酒造でした。ほとんどの蔵元や造り酒屋がウイスキー事業の低迷により縮小を考え断る中、笹の川酒造だけが、「廃棄は酒業界全体の損失」と預かりを承諾してくれたんだそう。
こうして誕生した、記念すべき最初の「イチローズモルト」は、羽生蒸溜所が残した400樽の原酒からボトリングしたもの。生産本数は600本でした。（1万3500円（税別））
この最初のリリースとなった「イチローズモルト」のボトルは、笹の川酒造から譲ってもらった、使用していないワインボトルだったそうです。
2年かけた600本の行き先
手元にあるボトリングされた600本の「イチローズモルト」の品質には自信がありました。しかし、立ち上げたばかりのベンチャーウイスキーには、販路がまったくありません。
そこで肥土氏は、バーなどの専門店に営業をかけにいくことにします。バーというのは横の繋がりが強く、いいものであれば口コミで広がっていく、そこに視点を合わせたのです。
夜はバーを回り、昼間はバーテンダーが買い付けにいく酒屋に営業をかけ、1ケースだけでも、と地道に取り組んだといいます。
そこには、ある一定の「個性的なウイスキー」を好む、面白いと言ってくれる愛好家たちがたくさんいました。肥土氏がウイスキーの魅力に気付いた「隠れた市場」です。
この600本を売り切るのに費やした時間は2年。しかしこの2年こそが現在のベンチャーウイスキーを支える「人」と「時間」となるのです。
夢を語り続けたことで誕生した秩父蒸溜所
起業してから肥土氏は、研究のため通っていたあちこちのバーで夢を語り続けたといいます。
「自分の蒸溜所をつくりたい」 「面白いウイスキーがつくりたい」
肥土氏自身も世界中のさまざまなウイスキーに出会い、さまざまな価値観をもつウイスキー愛好家たちとの出会いの中で夢を口にすることで、自分がやりたいこと、やるべきことがはっきりと明確になっていくことを実感したそうです。
その通ったバーの数はなんと、1日3〜5軒、2年間で約2,000軒。ウイスキーの味わいだけでなく、こういった人柄や地道な努力が人と人とを繋ぎ合わせ、イチローズモルトを確かな存在へ高めていくことに繋がるのでしょう。
そしてそのうちに、夢に共感してくれる人、協力してくれる人が少しずつ現れ、「秩父蒸溜所」を設立、夢が実現することになるのです。
カードシリーズで世に羽ばたく
イチローズモルトの話題で欠かせないのが、「カードシリーズ」です。トランプの図柄をモチーフにしたボトルデザインで、ジョーカー2つを含む54種類。
そもそも4つの異なる樽の違いを伝えたいと、それぞれトランプの4つの柄に見立てたのが始まり。羽生蒸溜所の原酒でつくられたシングルカスクです。当時はまだ派手なラベルも少なかったため、印象的で目に留まりやすいという魅力もありました。
その中の一本が、イギリスのウイスキー専門誌、ウイスキーマガジンのコンテストで最高賞を受賞したのです。それが2006年のこと。イチローズモルトの名は、一気に世界へと広まりました。
その後2011年に発売した初の秩父蒸溜所のシングルモルトウイスキー「秩父ザ・ファースト」は、なんと7,400本が予約で完売するという快挙を成し遂げました。
そこからベンチャーウイスキーが手掛ける個性的なウイスキーは、発売する度に完売を続け、日本国内だけでなく世界から注目されるウイスキーメーカーとして愛され続けています。
2025年、新たな試みへ
100%国産ブレンデッドウイスキーを製造するため、ついに「苫小牧蒸溜所」が稼働し始めます！
苫小牧蒸溜所はグレーンウイスキーの製造に特化した蒸溜所で、ベンチャーウイスキーの新たな挑戦となります。
初出荷は2030年とも言われており、待ち望むファンの声が聞こえてくるような期待感に溢れています。初の苫小牧蒸溜所産ともなれば、愛好家だけでなく多くの人がそのウイスキーを求め殺到するでしょうね！
肥土氏が思い描く未来、つくり出す100%国産ブレンデッドウイスキーはどんな味わいなのか、今から楽しみです！！
イチローズモルトのレギュラーボトル
イチローズモルトは、非常に豊富なラインナップがあることで知られています。限定品などはほぼ手に入らないのが現状。流通価格は定価をはるかに上回ります。
ここでは比較的手に入れやすいレギュラーボトルをご紹介します！
イチローズ モルト&グレーン ホワイトラベル
定番商品のホワイトラベル。
世界5大ウイスキーの産地を含む世界11か所の原酒をブレンドしてつくられています。
アルコール度数は46%、小売希望価格は4,235円(税込)。
イチローズモルト ダブルディスティラリーズ
「リーフシリーズ」の中の1本で、緑色の葉が目印のボトル。
その名の通り、羽生蒸溜所と秩父蒸溜所、2つの蒸溜所の原酒がブレンドされています。
アルコール度数は46%、小売希望価格は8,800円(税込)。
イチローズ モルト ミズナラウッドリザーブ
「リーフシリーズ」の中の1本で、黄色の葉が目印のボトル。
ブレンド後にミズナラ樽で再熟成した、しっかりピートを感じられる味わいです。
アルコール度数は46 %、小売希望価格は8,800円(税込)。
イチローズモルト ワインウッドリザーブ
「リーフシリーズ」の中の1本で、赤色の葉が目印のボトル。
赤ワインを熟成させた空き樽で後熟させています。赤ワイン由来の果実味を感じられる個性的な味わいになっています。
アルコール度数は46%、小売希望価格は8,800円(税込)。
まとめ
今回は、世界中から注目されているジャパニーズウイスキー、「イチローズモルト」の誕生についてご紹介しました。
夢を語り続け、少しずつ現実になっていく感覚って一体どんなものなんでしょう。肥土氏の情熱と地道な努力、人柄すべて無くしては得られない感覚なのでしょうね。
まだ歴史は浅いといえど、世界中から高い評価を得るイチローズモルトのこれからの未来を見ていけることが嬉しいですね！
イチローズモルトのホワイトラベルなど、レギュラーボトルは比較的購入しやすいので、ぜひ手に取って、肥土氏の思いを味わってみて下さい。
